2006/01/31

[主張] 海外滞在者の法的立場を国内在住者と同等に

       (海外滞在者にも「犯給法」の適用を)

                                                   住山 一貞

 外務省が発表した「平成16年の海外在留邦人数調査統計」によると、16年( 2004)10月1日現在、全世界に96万人を超える日本人が在留しており、2005年には100万人を突破することが見込まれるとしています。ここで言う96万人は長期滞在者と永住者のみの合計であり、旅行者を含めるとすでに瞬間的には100万を超える日本人が国外にいる状態に有ると考えられます。(ここでは旅行者を含む表現として「海外滞在者」という言葉を使うこととします) 
 これら100万人の海外滞在者うちのの誰かが不幸にして犯罪に巻き込まれ場合はどのようなことになるでしょうか。
 先ず基本となる「刑法」についてはその改正が平成15年(2003年)に行われ、(註:9.112001年ですからこの改正前でした)3条「国民による国外犯」に第2項として「国民以外の国外犯」が追加された結果、海外における日本国民に対する殆どの刑事犯罪が、国内での犯罪とほぼ同等の扱いを受ける事になりました。従って被害者は日本の所轄警察の事情聴取や各種の調査(死亡の場合には司法解剖)を受ける事になります。これは被害者と家族にとってはつらい事ですが、国がその犯罪を無視していないという点ではプラスに評価したいと思います。(私達の場合は日本の警察との接触がなかったことはご承知のとおりです)
 次に、国内の犯罪被害者の強い働きかけの結果、一昨年・平成16(2004)2月、「犯罪被害者等基本法」(以下「犯基法」)が成立しました。これは被害者の尊厳をまもり、それにふさわしい処遇を受けられるようにしようという法律です。そして、その具体的な実施計画を定めた「犯罪被害者等基本計画」(以下「計画」)が昨年(2005)末の閣議で決定されました。被害者名を匿名にするかどうか問題となりましたが、ともかく被害者支援の一歩が踏み出された事は重要なことと思います。特にこの法律が立法段階から海外滞在者も対象としていることは心強いことと感じました。しかし、「計画」の中に在外公館の任務が書き込まれたにかかわらず、その内容は「現地の弁護士及び通訳・翻訳者の情報を提供していることを知らせる」ことに留まっていて、言葉の壁の解消に関するわれわれの切実な願望とはかけ離れたものでした。しかしこの問題は今後の努力によって解消すべき点として、あえてこれ以上は触れません。
 今私が強く主張したい事は『「犯罪被害者等給付金等の支給等に関する法律」(以下「犯給法」)の対象に海外滞在者を加えよ』ということです。この法律は昭和55年(1980)に制定されたもので、損害賠償や労災給付を受けられない犯罪被害者に対して給付金を支給することと、犯罪発生直後に被害者とその家族に対し緊急の支援を行うことなどが記載されています。この法律は適応基準が厳しいわりに支給金額は少ないなどの批判が多く、また警察の関与があまりにも多いなど抵抗感もありますが、一昨年制定された「犯基法」は、例えば給付金の制度充実など「犯給法」を前提としている部分が多く、実質的な支援の改善は「犯給法」の改善によって行われてゆく部分が多いと考えられます。ところが「犯給法」の対象となる犯罪は日本国内及び国の主権の及ぶ船舶、航空機内の犯罪だけなのです。したがって「犯基法」が海外在留者も対象にしているといっても、実質的に受けられる支援は殆どないのが現状です。
支給対象を国内に限定したのは「犯給法」が国が被害者を保護できなかった事についての賠償的意味合いを持っているためともとれますが、法的には公務員の過失があった場合以外に国家の賠償が行われることはなく(憲法17条)、この給付金は賠償金ではなく見舞金とみなされることが定説のようです。そうであれば海外滞在者も当然 国内被害者と同じ基準で給付金が支給され、その他の支援も受けられるべきであると考えます。          私は「刑法」3条2項改正時点で「犯給法」の改正が行われなかったのは明らかに手落ちであり「不作為」にあたると思います。
 私は「犯給法」を海外滞在者にも適応するように改正することによって海外滞在者の無権利状態を解消し、それによって今後の日本の国際的発展に多少なりとも寄与するとともに、日本社会が「自己責任論」に表象される冷たい社会ではなく、不幸な人や弱い人を暖かくつつみこんでゆくような、もっと思いやりの有る国になるきっかけにしたいと思っています。
そしてそのことを息子を含む9.11日本人犠牲者の日本の法制上でのささやかなモニュメントにしたいとねがっています。
残念ながら今の日本では、それが正論であっても黙っていては何も実現されません。このような問題を国会に持ち込むには、個人では難しいようです。ともに運動を進めてくださる9.11関係者が名乗り出てくださることを切望しています。
去る12月23日の本会議で、犯罪被害者支援の問題に関する民主党長島議員の質問にたいし、小泉首相は社会保障全体の中で比較勘案しながら問題点は2年以内に改善すると回答されました。
一方、バリ島やアフガン、イラクなどで本来なら「犯給法」の適用を受けられると思われる被害者が次々と生まれています。
早急な働きかけが必要と思います。
メールまたは郵便での連絡をお待ちします。

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