ベンジャミン・フルフォード著「暴かれた9.11疑惑の真相」を読んで(2008.5.1)                 住山一貞
 9.11事件は陰謀であるという論議が事件発生直後からありました。初期にはサイト上で情報交換されていましたが、その後週刊誌、単行本などに発表されるようになりました。
 私はこのような考え方の人たちから心無いメールや投書を受取り、アドレスを変更せざるを得なくなるなど実質的な被害をうけていた事もあって、この様な論調をなす人たちに反感を持ち、事実関係も信憑性が薄いと考え、このサイトで取り上げることはしませんでした。しかし、先頃この考えに基づくと思われる質議が国会で繰広げられるにおよび、無視するわけに行かなくなりました。そこで、割合入手可能な、ベンジャミン・フルフォード著「暴かれた9.11疑惑の真相」(扶桑社、2006年9月初版発行、同年10月の第3刷)を読んでみました。     
以下、その感想を記します。                          
 著者は在日カナダ人で、上智大、カナダB.C.大卒のジャーナリスト、著書多数、最近はTV出演もあるようです。                                       
 著者の主張の要点は、概略次のようなものです。           
1.NYのWTC1,2,7は火薬により爆破された。火災のみであのようにビルが崩壊する事はない。鉄骨断面が溶解しており、アルミを含む火薬によるテルミット反応が認められる。
2.突入した航空機は民間機ではない。民間機に有る窓が映像上見られない。
3.ユナイテッド93便は空軍機により撃墜された。エンジンが離れた場所から発見されている。
4.ペンタゴンの損傷部の穴は航空機全幅より小さい。ミサイルの発射によるとおもわれる。
5.結論:「アメリカ政府のヤラセだと確信している」

 私は読み始めてすぐ、これは「うそ」だと強く感じました。冒頭部分に 「世界貿易センタービルに激突した2機の航空機は(略)残骸は何も残っていないと伝えられている」とあったからです。私は回収現場で車輪部分の残骸を見ています。それは今NY州立博物館(アルバニー)に保管して有るはずです。また無かったはずの「窓」はトリビュートセンターに展示されています。そして文章は残骸さえないのに実行犯のパスポートが見つかったのは不思議だ(註)との文脈で読者を「ヤラセ」説に誘導してゆきます。何も知らない読者はそれを信じ込み、以後展開される論を全て真実ととるでしょう。しかし私は最初にこのようないい加減な記載をされたので、その後に一部の真実を含んでいたとしても全て「ウソ」に感じられてしまいます。
(註:少なくとも、ビル勤務者のIDカードは多数発見されており、私もプラスチック製の「給油カード」がコンベアーの上から回収されるのを見ています)
 これに続いて爆発音についての証言が延々とつづきますが、爆破が誰によるものか全く触れられていません。もし本当に爆発があったとしたら、私はテロリスト側による犯行の可能性の方が大きいと思います。「同時多発」は彼らの常套手段ですし、駐車場爆破の前犯歴(1993)も有ります。状況証拠は彼らに不利なのです。爆破はテロリストによるものでないという立証が必要でしょう。
 著者は爆破説の証拠として、火災だけではビルは崩壊しない、ジェット燃料の燃焼だけではでは鋼材の溶解温度(1649度)に達しないと書いています。
  しかし金属は温度が上がると軟化するので、数百度に加熱されると引張り強さや衝撃抵抗が常温の半分程度になってしまいます。もっとも弱くなる温度域は鋼材の場合400-500度とされ、金属加工を行う場合に避けるべき脆性現象領域(Blue shortness)とされています。さらにそこに荷重がかけ続けられる場合は荷重軟化とかクリープと呼ばれる現象があり鋼材の強度は著しく落ちます。WTCビルは火災によりこのような状態となり崩壊に至ったと考えられます。
 また爆破説の根拠としてテルミット爆薬に使われるアルミニウムの検出があげられていますが、建築材料や航空機にアルミニウムが使われているのですから、その検出は当然でしょう。
 鋼材の大部分がスクラップとして米国外の業者に販売されてしまった事は事実ですが、主要部材は調査されています。一昨年のTV番組ではバージニア州(場所は不明)で保管されている場面が放映されています。(ついでながら本書に爆破による溶解の証明として引用している鋼材の写真の断面は、搬出のため溶断されたに過ぎないようにみえます)
 WTC7については構造等の情報が少なく私には良く判りませんが、1周年追悼式の時、「7」と並ぶWTCサイト北側のビルは多くが壁が殆ど無い状態でした。安全のため人為的に落とした個所もあったでしょうが、これら北側のビル群は相当のダメージを受けた事は明らかです。したがって、そこで火災が発生したとすれば「7」も「1」「2」と同様な現象で崩壊したと推定することは無理ではないとおもいます。

 長くなるので3,4については省略しますが、この本には伝聞や推測による記載が多すぎます。現地調査をすることなく、「伝えられている」と言うような「逃げ」を用意して記載することはジャーナリストとして恥ずべきことではないでしょうか。
 そしてこのようなあやふやな推論の上にたって国会論議が進められることに大きな危険性を感じます。それは真の敵が誰であるかを見誤ませる可能性を含んでいるからです。

直接の事件関係者以外の方へ:冒頭に書いた理由により、このサイトは一方通行になっています。反論の有る方は各自のサイトで行ってください。)

               

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